100の読者、100の経験[071]


古屋 梨奈

 

千葉県立美術館 学芸員

2018年12月9日 自宅の本棚
2018年12月9日 自宅の本棚

Q1:本書を読んで印象に残っている一文があれば教えてください。

—————— いままで読んできた本が、人生のなかで栞の役割を果たしているのかな、という気がしました。

p114

Q2:その一文から感じたこと、思ったこと、考えたことを教えて下さい。

 

プルースト『失われた時を求めて』のマドレーヌに象徴されるように、味覚や嗅覚など、五感によって記憶が呼び戻される経験がある。たしかに、本にもマドレーヌ同様、記憶が呼び戻されることがある。ただ、わたしの場合はある1日、ある瞬間ではなく、ある時期をおぼろげに思い出す。柏葉幸子『霧のむこうのふしぎな町』の背表紙を見れば、たちまち小学4年生の空想世界と現実世界のあいだを行ったり来たりしていた自分がよみがえる。

 

わたしたちの人生は繰り返しだ。寝て、起きて、食べて、はたらき、また寝る。この尊い繰り返しのなかで、卒業、結婚、出産など環境の変化は、記憶に強く刻まれる。一方、繰り返される名もなき日々はあっという間に忘れ去られていく。本という存在は、そんな名もなき日々を思い出させてくれる数少ない道具のひとつだ。今日も寝て、明日も起きてはたらく。その合間に本を読み、わたしの名もない日々に栞をはさんでいく。



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