100の読者、100の経験[025]


藤原 旅人

 

アートボランティア・プランナー 

踏査先で読むことが多い。今回の台湾踏査で8カ国目を数える。写真は2017年7月14日、イタリアのベネチアにて
踏査先で読むことが多い。今回の台湾踏査で8カ国目を数える。写真は2017年7月14日、イタリアのベネチアにて

Q1:本書を読んで印象に残っている一文があれば教えてください。

—————— 芹沢|こうした小さな試みが、社会の至る所で自生し、共生する社会を夢見る。

[p176 15行目]

Q2:その一文から感じたこと、思ったこと、考えたことを教えて下さい。

 

2017年10月末、台湾の南、高雄まで足を伸ばし、野外で大阪の劇団維新派の最終公演を観た。そこからポストコロニアルについて考えている。近代文明の勝者としての西洋の影響は現代世界の至るところへ浸み渡っている。政治、経済だけに留まらず文化にまで及び、グローバル化世界を席巻する。しかし、暗闇の舞台に浮かび上がる少年は「私たちはどこから来て、どこへ行くのか」とつぶやいた。世界には国家の勝ち負けよりもっと大切な自己への省察があるのだ。『言葉の宇宙船』も私たちに豊かな内省を促す。愚直な紙媒体として本を出版し、忘れかけた論点をあぶり出す。ここから議論を受け止め、何を創り出していくのか。

 

私は芸術を支えるボランティア活動を意味づけるなか、「中動態」という考え方に注目している。近代社会は自律的な主体を持った個人を生み出したが、他者からの影響を受けつつ、その過程で起こる対話や議論から緩やかに自分の意思を育む存在も見逃せない。この中動態の関係性を現代社会の中で創り出すことができないだろうか。決して簡単ではない隘路だが、言葉の宇宙船から示唆された一隅に新たな居場所が見えてくる。



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