100の読者、100の経験[023]


江原 茗一

 

ミュージシャン/文藝誌「園」主宰

2017年10月27日 荒れ果てた机の上。これから外へ、また持ち出すところ
2017年10月27日 荒れ果てた机の上。これから外へ、また持ち出すところ

Q1:本書を読んで印象に残っている一文があれば教えてください。

—————— 芹沢|言葉も書かれているけれど、やはり物質的な塊ですよね。そうすると当然、その本自体も年を取っていくし、自分の肉体がその物質と出会って、一緒に同じように年を取っていく。だから、ある言葉が合言葉として聞こえてくると、その本との出会い、歩んだ自分の人生が紐づいてきて、ただのキーワードを共有した以上の何かが生まれてくるんじゃないだろうか。

[p93 13行目ー19行目]

Q2:その一文から感じたこと、思ったこと、考えたことを教えて下さい。

 

幼少期、『ライ麦畑でつかまえて(野崎孝氏訳)』を繰り返し読み、感じたことをやたらと書き込んでいた。

 

昨年の暮、実家へ帰省。そこで久しぶりに本を手に取った。内容を掻い摘みながら、当時の様々なことを思い出し懐かしい。

 

終わりに差し掛かったあたり、私の字で「もう分かり合えない」と書いてある。いつ頃の書き込みなのか、よくは思い出せない。その時私は、ホールデンと「もう分かり合えない」状態に成長していたのだろう。埋め尽くすように書き込まれた共感と、徐々に感じ始めた違和感。そして、「もう分かり合えない」という気持ち。何年も経って、再会したホールデンに「昔の君はこうだったよね」と思い出話でもされているような。

 

ホールデンと疎遠になって過ぎていった時間やもっと前の記憶、今の私自身が鮮明になった気がして、それで、芹沢さんの言葉がしっくりしたのだった。



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