長谷川 浩己
ランドスケープデザイナー
オンサイト計画設計事務所 パートナー
Q1:本書を読んで印象に残っている一文があれば教えてください。
—————— 肉体があることによって何が起きるかを考えておきたいですね。まず、肉体は旅するよね。図書館を定宿にして出たり入ったり、あるいは書店や古本屋から人の手へ。プレゼントとしてどこかに行くこともあるし、港さんたちがつくっている『ART BRIDGE』は手渡しで流通していく。その旅の途中で他者と出会っていくから、そのとき、本はどういう働きをするのか、つまり道具としてどのように機能するのか、考えておくべきではないのでしょうか。
場所とも結びつきますよね。カスタネダの本もそうだけど、たとえばピーター・マシーセンの『雪豹』なんかは、カトマンズあたりの安宿に留まりやすい。そしてその場所性を体現するものとして、読者を異世界に誘うための扉になってくれる。
[p123 14行目 — p124 4行目]
Q2:その一文から感じたこと、思ったこと、考えたことを教えて下さい。
本を読み直してみようと、出張の鞄に放り込む。まさしく「本」は旅をします。世界の中にアンカーを下ろすときにそこに場所が生まれるという感覚があるのですが、まさに本を読むという体験も場所の感覚と共にあることを再認識しました。本は、それを読んでいる場所とは別の場所の感覚をもたらしてくれます。まさにそれは本が肉体を持っているからなのでしょう。
肉体と肉体の相互作用として読書体験がありますが、そこに「居る」場所と、本がつないでくれる「そこではないどこか」が共鳴するとき、忘れがたい体験となります。
ずっと昔、バリ島のウブドでブラブラしていたとき、街の一角に古本屋があって、棚一列ほどの日本語の本もありました。そこで見つけた開高健の『輝ける闇』をそれこそ安宿のベッドの上で読みふけり、内容の重さと、湿気った濃密な空気、鶏の声、宙ぶらりんの時間などが相まって、読後しばし放心していたのを思い出しました。
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